高松地方裁判所 平成4年(行ウ)5号 判決 1994年8月09日
原告
瀬戸内清掃有限会社(X)
右代表者代表取締役
西岡春声
右訴訟代理人弁護士
白川好晴
被告
国分寺町(Y)
右代表者町長
津村文男
右訴訟代理人弁護士
田代健
理由
二 請求原因3について判断する。
1 廃棄物処理法七条の許可申請に対する不許可処分の適否
(一) 一般廃棄物を収集運搬、処分することは生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とする市町村が処理しなければならない固有の事務(地方自治法二条九項、別表第二の(十一))であって、市町村は自らの処理計画に従ってこれを処理しなければならない。市町村が、自らまたは委託により処理できないときは、業者に事務を代行させることになり、その際、業者に対し、廃棄物処理法七条の許可を与えることになる。このように、右許可は、本来、市町村のみが行い得る一般廃棄物の処理を特に私人が行い得るようにする制度であり、その場合、市町村長は、市町村自体による処理が困難であること、市町村の定める一般廃棄物の処理計画に適合することを基準として(同法七条二項一、二号)、法の目的に照らし、当該市町村の実情に応じて自律的、専門技術的、政策的に判断するもので、右許可基準に該当するか否かの判断に当たっては、市町村長は広範な裁量権を与えられているというべきである。
したがって、本件の右不許可処分は、それが、社会観念上著しく妥当性を欠き、その与えられた裁量権を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法とはならないと解するべきである。
〔証拠略〕によると、次の事実を認めることができる。
国分寺町においては、昭和五一年以前から、その区域を南部と北部に区分し、南部は高松衛生社に、北部は国分寺衛生社に各分担して各区域の浄化槽汚泥の収集及び運搬を許可している。当初は、高松衛生社だけであったが、後から国分寺衛生社が参入してきたもので、新規参入により、格別な混乱が生じた様子はない。また、被告の担当課に対し、浄化槽汚泥の収集、運搬に関し、町民からサービス、料金その他の点で苦情が多数寄せられた形跡もない。そして、被告の平成四年一月に作成された同年の一般廃棄物処理基本計画(生活排水)によると、浄化槽汚泥の処理の現況について、その収集、運搬は許可業者が浄化槽清掃業と併せて実施しており、全量を高松地区広域市町村圏振興事務組合のし尿処理施設で処理しているとされ、処理計画としては現在の形態で実施するものとされている。
〔証拠略〕中には、国分寺町の町民から、現在の浄化槽清掃業者では、依頼しても来てくれない、作業態度が悪い、料金が高いといった苦情が原告へ寄せられた旨の供述部分があるが、信用できないので採用しない。
右認定の事実によると、国分寺町においては本件廃棄物処理法七条の許可申請当時、一般廃棄物の収集、運搬、処理が困難であったとはいえないし、右申請が被告の平成四年の処理計画に適合しているともいえないのであるから、これを不許可とした町長の処分を違法ということはできない。
(二) なお、原告は、浄化槽法三五条の許可申請が廃棄物処理法七条の許可申請と併せてなされている場合は、前者が羈束裁量の許可であることに鑑みると、後者の裁量権はその限りで制約される。また、浄化槽清掃業の方が主で、右業務により生じた汚泥の収集、運搬はその付随的業務に過ぎず、これに対する裁量権の行使により、主たる業務である浄化槽清掃業の規制を実質的に変更することになると主張する。
右主張は、浄化槽法三五条の許可と廃棄物処理法七条の許可とを一体的に把握するかの如くであるが、こうした解釈は、右各許可が別個の法制によっている法の建前からして採用することができない。
すなわち、昭和五三年までは、廃棄物処理法施行規則二条二号により、同法九条一項の許可を受けた浄化槽清掃業者が、汚泥の収集、運搬、処分を業として行う場合は、同法七条一項の許可を要しないとされていた。つまり、浄化槽清掃業と当該業務にかかる浄化槽汚泥の収集、運搬は一体の業務とされていた。しかし、こうした法制は、昭和五三年八月一〇日厚生省令五一号により廃止され、浄化槽清掃業者が、汚泥の収集、運搬、処分をする場合には、前記二つの許可を要することとされた。その趣旨は、浄化槽が一般家庭に普及したことに伴い、市町村の一般廃棄物処理事業中で汚泥の処理業務の占める割合が増大したので、汚泥の処理を事業の範囲内とする一般廃棄物処理業の許可を要することとして、市町村の一般廃棄物処理計画との整合性を図ることとした点にある。そして、原告主張のように、浄化槽法三五条の許可をすると、これにより、廃棄物法七条の許可を行うべき制約が設けられるとすると、市町村の一般廃棄物処理計画の変更が必要になって、肝心かなめの処理計画が制約されることとなって、市町村の右処理計画との整合性を図ることとした新法制の趣旨に反することとなるというべきである。
したがって、原告の主張は採用できない。
2 浄化槽法三五条の許可申請に対する不許可処分の適否
(一) 浄化槽清掃業は、一般廃棄物処理業とは異なり、本来それ自体で処理する機能をもつ浄化槽内部の清掃等を行うものであって、市町村の固有の自治事務とはされておらず、浄化槽清掃業を行おうとする者は、その区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならない(浄化槽法三五条)ものの、市町村長は、清掃業の業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者に対しては、右許可をしてはならないが(同法三六条二号ホ)、こうした欠格事由等に該当しなければ、許可は与えなければならないとされている。ところで、浄化槽を清掃すると、清掃の結果引き抜いた汚泥を処分しなければならないが、清掃業者が自ら汚泥を処理するためには、これを運搬して処分しなければならないから、廃棄物処理法七条の許可を得ているか、または、右許可を得ている業者に委託する等その汚泥の運搬、処分の方法につき確実な方策を得ている必要がある。こうした方策を持たない限り、汚泥をその場に放置したり、不法投棄することになりかねない。こうして、浄化槽法三五条の許可申請をする者で、廃棄物処理法七条の許可を有せず、又はその許可を得ている業者に業務委託すること等により汚泥を適切に処理する方法を有していない場合は、公衆衛生上不適法な行為に出るおそれが強いものとして、浄化槽法三六条二号ホの欠格事由に該当し、浄化槽清掃業の許可をすることはできないと解するべぎである。
〔証拠略〕によると、被告は、原告からの本件浄化槽法三五条の許可申請を受けて、平成四年一〇月二三日付けで、原告に対し、(1)原告が一般廃棄物処理法七条の許可を有する者に、浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥の収集、運搬又は処分を委託する場合は、委託契約書の写し、(2)浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥を自ら処理する場合には、その旨を確認できる書類を提出すること、(3)当該照会書の到達後一〇日以内に書類の提出がないと、提出がなかったものとして処理されることを通知したが、原告からは何の具体的な回答がなかったこと、実際にも、原告としては、浄化槽法三五条の許可だけ取得した場合でも、具体的に汚泥処理の方策を用意していたわけではなく、汚泥の処理は市町村の責任であるとの考えのもとに被告の出方をみるとか、廃棄物処理法七条の許可を有する高松衛生社と国分寺衛生社の二業者は競争相手であるから、これらに汚泥の運搬、処理等を依頼するのは事実上困難であるとは認識しつつも、頼んでみる努力はしてみようと考えていたとか、自家処理の可能性も考えていたといった程度でしかなかったこと、以上の事実を認めることができる。
右認定の事実によると、原告には、浄化槽清掃業の業務に関し、不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由があり、浄化槽法三六条二号ホ所定の事由があるというほかない(最高裁平成五年九月二一日第三小法廷判決、判例時報一四七三号四八頁参照)。
よって、本件浄化槽法三五条の許可申請に対する被告の不許可処分に違法はないというべきである。
(二) なお、原告は、浄化槽法三五条の許可を得るには、廃棄物処理法七条の許可が必要でないばかりか、右許可がなくとも、汚泥の処理は市町村の責任であるから、市町村あるいはその受託者等に汚泥の処理を依頼できるはずであり、汚泥の処理体制の存在自体も必ずしも必要でないと主張する。
汚泥処理の責任が市町村にあることの根拠が明確ではないが、地方自治法二条九項別表第二の(十一)に求めるにせよ、廃棄物処理法六条の二に求めるにせよ、かかる規定から、それだけで汚泥の処理につき方策を持たない者に対し、浄化槽清掃業の許可を与えたうえで、その者が排出する汚泥の処理まで市町村の責任であるということはできないし、廃棄物処理法七条の許可を有する業者が、他の業者が引き抜いた汚泥の収集、運搬を依頼されると拒否できず、当然に収集、運搬等する義務を負うと解することもできない。また、汚泥処理体制が存在しなくとも、許可後、条件が整うまで業務執行を見合わせる等して将来を待つことがあり得るというが、独自の見解というほかない。
さらに、〔証拠略〕によると、なるほど原告は、昭和五五年設立後、香川県知事からし尿浄化槽維持管理業の許可を受け、坂出市、宇多津町、飯山町、綾歌町、綾上町、綾南町において、一般廃棄物処理法七条の許可と浄化槽法三五条の許可を受け、いずれも浄化槽清掃業に従事していることが認められるものの、原告が国分寺町において、不正または不誠実な汚泥の処理をしても、既に得ている他の市町の許可が直ちに取り消されることになるとはいえないから、原告が国分寺町で不正または不誠実な汚泥の処理をすることはありえないとは推断できないし、成立に争いのない甲第八号証の一、二、前掲南側証言によると、実際、香川県下において、汚泥処理の方策を有しないまま浄化槽法三五条の許可がなされている例はなく、観音寺市、引田町、白鳥町、琴南町、大野原町、仲南町において、右許可を受けながら汚泥の収集、運搬につき廃棄物処理法七条の許可を有していない業者もあるが、右各市町においては汚泥の収集、運搬について業者への委託の方式を採っており、仲南町では、ある浄化槽清掃業者は汚泥について町からの委託はないが、他の業者に収集、運搬を委託していることが認められ、この事実を併せ考慮すると、国分寺町において、前記のとおりの原告の態度から原告の不正または不誠実な汚泥の処理の可能性を否定できないと判断したことに不当の廉はないというべきである。
したがって、原告の主張は採用できない。
(裁判長裁判官 滝口功 裁判官 和食俊朗 森實有紀)